お侍様 小劇場 extra

    “みゃあは ドレミのみゃ♪” 〜寵猫抄より
 


この夏といえば、
世界的に超有名な歌手、
キング・オブ・ポップス 衝撃の急死という大事件があって。
それでなくとも久々のヨーロッパ公演ツアーや、
ご本人のお誕生日が間近だったので、
注目が集まってた最中の出来事であり。
世界中のファンがその死を悼み、
彼の出世作となった曲のPVが、
ニュースやワイドショーなどのあちこちで、何度も何度も放送されていた。
今だと“ビデオクリップ”なんて言い方もする“プロモーションビデオ”を、
ただ歌う姿を収めただけではなく、
特殊効果も駆使し、ふんだんにダンスシーンも取り込んだ、
映画のようにストーリーのある“作品”として、
画期的な作りにした、その最初とも言えるのがその曲で。
なんてセンセーショナルなと、話題になっての爆発的な大ヒットとなり、
曲を収めたアルバムはギネスブックに載っているほどの売上を記録。
つい最近でも“彼と言ったら…”との引き合いに出される曲の、
筆頭であり続けたくらい。

その話題が何とか収まりつつある秋の初めになればなったで、
今度は…今年は何かしらの記念の年なのか、
新時代のポップス界を切り開いたとされる、
英国が生んだあの超有名な4人組ユニットに関連した話題が、
これまた次々に取り上げられていて。
これまで出されたデジタル版ではどうしても、
限界があってか再現されてはいなかった音質を。
今現在の技術を総動員して、
そりゃあクリアに、且つ、臨場感あふるる出来へとなるよう、
収録し直したというCDボックスが発売されるわ。
彼らと一緒にギターやドラムを演奏出来るという、
変わり種のゲームソフトが発売されるわ。

 「にゃにゃっ?」

基本的にお昼間はあんまりテレビを観ないご家庭なのだが、
携帯やデジカメに収めた映像を整理していたそのついで。
PCの画面じゃあ飽き足らず、テレビに接続しての大きな画面で眺めつつ、
ああこれは公園に行ったときのだねぇ、
こっちは城崎の旅行に行った折のだ、覚えているかい?
あ、これは焼き増ししてキュウゾウくんにも渡そうかしらね?なんて、
微妙にのんきな午後を過ごしていたのだが。
そんな映像たちが、
整理がついたとのことで終しまいと消されたのと入れ替わり。
軽快なリズムを刻む曲をBGMに、
リアルタイムで放映されていたのだろ、
お昼のワイドショーか何かの画像が ンパッと現れた。
聞き覚えのあり過ぎるスタンダードな曲が流れて来たので、

 『ふぅ〜ん、そんなゲームが出るんだ』

番組自体からは
その程度の感慨を覚えただけで済むはずだったものが、

 「♪♪♪〜♪」
 「? 久蔵?」

チャンネルを変えて、
ニュースでも見ておこうかなとしかかった七郎次の手が止まる。
時折 画面を指差ししては、
仔猫の姿の自分や、勘兵衛や平八が写っていたのへ、
何でどうしてと言いたげなお声を出していたものが。
若しくは、向こうのお国のキュウゾウお兄さんのお顔へ、
とととっと歩み寄って、
触りに行ったりもしかけていた仔猫の様子が…ちとおかしい。
何に見とれているものか、表情が止まっての陶然としており、
だがだが、

 「にゃんこや わんこは出てないよ?」

丁度、ふわふかな毛並みの動物の映像に示すような反応だけれど、
画面に写っているのは、
本物に似せたベースギターのレプリカを構えていたり、
ゲームソフトの箱を提げて嬉しそうな、アメリカの青少年の姿ばかり。
だっていうのに、一体 何へと魂抜かれたか。
額にふわりとかぶさる、軽やかな金の前髪越し、
紅の双眸うるるんと見開いたまま、そんなテレビに見ほれてござる。
パッと見には、
テレビ前に置かれたローテーブルの縁へと、手を載せての掴まり立ちという、
いつもの立ち姿にすぎないはずが。

 「…?」

ころころと丸い印象のする三頭身の幼子、
まだあんよの殆どが露出している半ズボン姿の、
その足元が…微妙にゆさゆさと揺れてはいないか?
足元といっても、足の部分はまだ覚束無いのか動かせぬらしいが、
その代わりにか お膝のところでリズムを取っての、
ふんふんルンルンという一定のリズムで、その小さな体が揺れており。
白っぽい柔らかそうな生地のお洋服にくるまれた小さなお尻が、
よいよい・ひょいひょいと微妙に上下しているものだから、

 「〜〜〜〜〜っ。////////」
 「心情の激動ぶりのほうは判ったから、
  久蔵の一体何に改めて惚れておるのか、話してはくれぬかの。」

今日も今日とて執筆に入っておいでだったのを、
ちょいと息抜きと通りすがられた勘兵衛様。
リビングに家人らを見かけ、
何をしているのかなぁと そおっと歩み寄ったその途端、
こっちが突然掴みかかられての驚かされようとは、
想いも拠らなかったに違いない。
(まったくだ)




      ◇◇◇



どうやら、BGMにと流れていたビートルズの名曲の数々を聞き分けて、
それらへと“ノッて”いる様、見せていた久蔵だったらしくって。
年端もゆかぬ…どころか、まだまだ乳児と言っても通りそうなほどに幼い和子。
それが、初めて聞いた英語のお歌に合わせ、
お顔こそ魂奪われたかのように無表情なままだったながら、
ノリノリで ヨイヨイほいほいと体でリズムを取ってただなんて。

 “仔猫の姿だとどんなはしゃぎようなんですかね。”

こそり見やったサイドボードの、ガラス扉に写っていた彼はといえば。
まずは立っちしてもテーブルに手の届かぬ大きさなので、
テーブルの足に掴まっての後足立ち。
何だか、電柱の陰から誰かを見守る図のような体勢になり、
小さな丸ぁるいお顔、
顎のところでひょいひょいと、やはり上下へ振っており。
わんこじゃないので、さすがにお尻尾まで振ってはないけれど、

 「…聞こえるものへとこういう反応をするとは。」
 「そうですよねぇ。」

見ているものから注意を逸らさずにいて、
それが小刻みに動くのへ合わせて、視線やお顔が動くという図はよく見るが。
音楽の刻むリズムへも、こんな反応をしようとは。

「そういえば、ユーロビートも好きですよね。」

歌手のお気に入りの連れなのか、
トイプードルだの、コーギーだの、一緒に出てくるビデオがあって。
それでと時々、久蔵と一緒に観ていたPV。
今にして思えば、ダンサブルな曲だと乗れるからだったのか、
抱え上げてたお膝からスルリと降りては、
あんな風にしてお尻をヒョコヒョコ上下させちゃあ、
ご機嫌さんなところを見せてくれますし…と七郎次が説明してくれたのだが。

 「ゆぅろびぃと?」
 「? はいvv」

何とはなく怪しい発音で繰り返した勘兵衛様であり。

 それはあれか、R&Bとも違うものか?
 う〜んと、違うんじゃないですかねぇ…

という やりとりでもお判りか。
当家の家長様、残念ながら、
今時のポップスには微妙に関心をお持ちでないご様子。
彫の深い面差しといい、
まだまだお若い精悍な風貌をしていらっさるのに、
こういう話題でそのような発言をなさるのは。
いけない、悪いというのじゃないけれど、
ちょっと勿体ないというか、ちょみっと残念といいますか…。

 「……。」

そんな感情、ついつい載せて、
無言のまんま、されど青いお眸々でじいっとばかり、
敏腕秘書殿が見つめて来。
こちらさんは意味も分からぬ身だろうに、
テレビのコーナーも終わったと、彼のお膝に戻った仔猫様が、
やっぱり…小さな顎を上げての見上げて来たのへと、

「仕方があるまい。世代が違うからの。」

おいおいとの苦笑を見せる御主様で。
といっても、ご自身の日頃から察するに、
演歌やはたまたクラシック、
間を取って
(?)のジャズしか知らぬというほど、
何かへ一辺倒に偏ってもないようであり。

「インタビューなぞで“洋楽”なんてお言いにならんで下さいましよ?」
「そこまで年寄りではないわ。」

判っていての揶揄だろと、
こちらもわざとらしくも ちらりと斜
(ハス)に構えた視線を返し、
ほれと手を伸ばすと、小さな仔猫、
みいと嬉しそうに微笑って、やわやわの頬をふくりと膨らまし、
小さなお手々を勘兵衛へと伸ばす。
それを見やった七郎次から、
お尻にも手を添えてのどうぞと丁寧な両手もちで、
お守りのお膝の役を譲られた勘兵衛。
ふわりさらりと仄かに暖かな小さな温もり手渡され、
自身の頼もしいお膝に座り直させながら、

「とはいえ、今時の楽曲はさっぱり判らんのも事実だしの。」

その辺りはさすがにお認めのご様子で。

 どうせ儂の若いころといや、
 ホール&オーツやイーグルスが全盛期という古さだしの。
 嘘を仰有い、勘兵衛様の世代だと、ビージーズにビレッジ・ピープル…。
 どこまで年寄り扱いするか。
 だってヘイさんがゆってましたもの、

「デスクの茂野さんと、
 カントリーとかいうジャンルの伝説のスーパースターだった、
 ジョン・デンバーとかいうお人の話で盛り上がってたって。」
「う…。」
「カーペンターズより前の世代の人だそうですね。」

ちなみに、私はワムとオリビアですかね。
そなたこそ嘘をつくな、後ろ指さされ組のCDを集めていただろうが。
ななな、なんてこと知ってますか ////////……と。

 「……?」

こういう話題は、
世代が微妙にズレてても、それなりに楽しめるものであるらしい。
あんまり夢中でのやりとり交わすお二人なものだから、
話の発端だったはずな坊やまでもが、
お尻ふりふりのキュートなダンスで彼なりにはしゃいでいたのも忘れ去り。
頭上で交わされている“ああだ、こうだ”へ、
意味は判らないまでも、その熱意とやらに引き込まれたか。
赤い双眸きょろんと見開き、
勘兵衛と七郎次のお顔とお顔、興味深げに見つめる始末。
そして…愛しい和子からのそれだけに、
無垢な視線へは気づくのも早い。

 「……って、あああ、ごめんごめん、久蔵。」

喧嘩なんかじゃないからね?
さようさ、仲がよすぎてのディスカッション、だからの?
あのあの勘兵衛様、横文字では通じてませんよぉ。
むう、ではどう言えと。
またぞろ“ああだ、こうだ”が始まりそうになったのへ、

 「にゃあん、みゃうみぃ。」

両者の胸元へと小さな両の手 とんと突いての、
華奢なその腕 差し渡し。
まるで“まあまあ”と、
ここは私の顔に免じてと、仲裁に入っているかのように、
大人の両方へと、代わる代わるお声をかけてた、
おちびさんだったそうでございます。




  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.09.10.

*素材をお借りしました → Another Mind サマヘ


  *999の日に何かUPをと思いつつ、
   時間が足りなくて叶いませんでした。
   勘兵衛様の次に久蔵殿が好きなはずの私だのに、
   これはちょっと口惜しかったです。
   遅ればせながら、
   しかも何だか中途半端なネタですが、
   よろしかったらとの 後出しUPです。
   (微妙に意味が違うぞ、Morlin.さん…)

  *ちなみに、
   大妖の身の久蔵殿としては、
   音楽にはあんまり馴染みはないかも知れませんねと思いきや。

   《 北領の敦宣公…。》
   《 ああ、能笛の名手であったの。》

   おおお、なんかいかにも大昔風の、ご愛顧が一応はありましたか。

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